[3]冴えた手の内


柄の握り

 竹刀を持つ時には、左手は柄頭から小指が出ないようにいっぱいに持ち、右手は鍔に触れるか触れない程度に持つのが基本とされています。

 中には左手の小指半分を柄頭にかけて軽く締めるという持ち方を指導される場合もあるようです。

 これは日本刀と違って「斬る」のではなく「打つ」という作用をする竹刀の場合、打突時の反動が日本刀より強く柄頭に戻ってきてしまいますが、小指を半がけにしておくと、その衝撃が小指に強くかからず、自然に手の平に抜けますので、小指を締めた手の内が緩まずに打突に冴えを出すことが出来ます。

 ただし、これは竹刀に特化した持ち方ですので、日本刀と竹刀の違いを十分に認識した上で工夫されることをお勧めします。

 柄の握りは、左右両手とも親指と人差し指は軽く添える程度に握り、中指は締めず緩めず、小指と薬指とを十分に締める心持ちで握ります。

 手の平を開き加減にして親指人差し指を柄から離し、中指と薬指の先に乗せるようにして持っている人をたまに見かけますが、これでは瞬間的に竹刀を払われたときなどに取り落としたり対処が遅れたりする場合がありますので、極端に握りが緩すぎるのも良くありません。

 宮本武蔵も「手の内にはくつろぎの有る事あしゝ」と言っています。

 柄の握りには、「小鳥や生卵を握るように」とか、「左手は傘の柄を握るように」という昔からの教えもありますので、各自で研究し工夫してみてください。

 また、肘は伸びすぎず、両腕の間接を柔らかくして肘の内側をやや上に向けるような心持ちで脇を軽く締めます。

 この時、濡れ手ぬぐいを絞る気持ちで両手首を締め入れるというような教えもありますが、あまり手首を絞ることを意識しすぎると、肘が伸びきったり肩に力が入ってしまいやすくなります。両手それぞれの親指と人さし指の割れ目が竹刀の弦の延長上に来るようにすることを心がけると良いと思います。

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手の内

 剣道で言う「手の内」というのは、竹刀を持った時の両手の活用の方法を言い、力の入れ方や打突の際の左右の手の作用、そのときの緊張の状態・全体的なつり合いなどを総称した意味で使われます。

 手の内の作用は、先に述べたような柄の握りで竹刀を持ち、打突に際しては、握りの緊張(しっかり握ること)と解緊(柔らかく握ること)をたくみに行います。打突の瞬間の手の内の作用がよいと、打突に「冴え」が生まれます。

 剣道では、両手両腕の作用だけではなく腰を中心とした身体全体の活用で打突をしますが、上手な人に打突されたときには、かなり強い打突にもかかわらず、あまり痛さを感じないものです。

 これは手の内の締まりが良く、打突の衝撃が極めて短い時間で瞬間的に行われるからであり、反対に初心者が手の内を締めないで力任せの打ちっ放しの動きで打つと、衝撃を受ける時間が長くなるために飛び上がるほど痛さや重さを感じてしまいます。

 こういう打突にならないよう、稽古によって早く手の内の作用を覚えて行くことが大切です。

 手の内の作用を覚えるためには、素振りによる空間打突ばかりではなく、打ち込み台のようなものを実際に打ったり、バレーボール位の大きさのゴムボールなど竹刀で叩いて弾ませるなどの練習が効果的です。

 また、できれば巻き藁などを真剣で斬ってみる稽古も取り入れたいものです。竹刀でものを打つという手の内から、真剣で斬るという手の内へ変化させてゆくことによって、竹刀で打ったときの冴えも一段と良くなります。

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茶巾絞り

 剣道の手の内には「茶巾絞り」という教えがあります。最近この教えが一人歩きしてしまい、打突時に両手首を内側に絞りなさいという間違った教えなってしまっているようです。いわゆる手ぬぐい絞り、あるいは雑巾絞りと言われる手首の使い方の教えです。

 おそらく、剣道を始めたばかりの頃に、「打つときは、手ぬぐいを絞るように手首を内側に絞りなさい」と教わった人も少なくないと思います。

 しかし、実は昔からの教えに「手ぬぐい(雑巾)を絞るように」というものはありません。昔からの教えにあるのは「茶巾絞り」と呼ばれる手の内の教えです。

 「茶巾」というのは、茶道で使う小さな布きれです。これを絞るのに、手ぬぐいや雑巾を絞るときのように両手で持って捻るような絞り方はしません。これは片手で軽く握って小指薬指をきゅっと締めるだけです。

 つまり「茶巾絞り」の手の内の教えというのは、先に柄の握りと手の内のところで述べたように、薬指小指を締めるという手の内の緊張と解禁の作用のことを意味した教えなのです。

 昔の武士にとって「茶道」は社交のための教養のひとつとされていましたから、ほとんどの上級武士は茶道の心得がありました。現代で言うならビジネスマンにとってのゴルフのようなものでしょうか。ですから、「茶巾絞り」と言えば、その意味するところを大方は理解できたのです。

 しかし現代の剣道家で茶道の心得のある人はまれでしょう。おそらく茶巾すらも見たことも聞いたこともないかもしれません。そのため「茶巾絞り」と聞くと、その「絞り」という言葉だけに着目してしまって、一般的な「雑巾」の絞り方を連想してしまいます。

 一方で、初心者が初めて竹刀を持つと、手の平が上を向いて脇が開いてしまいがちになります。そのため、手の平を下に向けるようにしながら両脇を締めて竹刀を持ちなさいという教えがあります。

 そこで、この両脇を締めて竹刀を持つ教えと茶巾絞りの教えとを混同してしまって、打突時に手ぬぐいを絞るように両手首を内側に捻って肘を伸ばしなさいという教えになってしまったのでしょう。

 しかし、よく考えてみてください。竹刀のように柄が丸ければ両手首を互いに反対方向に捻ってもあまり違和感はないかもしれませんが、日本刀のように柄が楕円形のものを持って両手首を内側に絞ったら、刃筋が安定せずに力の強い手の方にぶれてしまいます。これでは物を正しく切ることが出来ません。

 つまり、手ぬぐい絞り、雑巾絞りの教えは、茶道を知らず、かつ真剣を持ったことのない現代剣道家の勘違いによる間違った指導なのです。そして、この間違った指導は、刃筋のブレばかりではなく「手打ち」という現代剣道が抱える非常に大きな弊害を伴ってしまいます。

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腕の内旋と外旋

 打突時に手ぬぐいを絞るように手首を内側に捻ろうとすれば、多くの人は振りかぶりの時にその捻りを元に戻そうとします。内側に捻った手首を元に戻す動作は、言い換えれば手首を外側に捻る動作になります。

 このように、振りかぶり時に両手首を外側に捻る、いわゆる「外絞り」をして、打突時に両手首を内側に捻る「内絞り」をしようとすれば、右拳が自分の顔の前で前後に行ったり来たりする動作となり、この動作は肩をほとんど動かさずに肘の動きだけで打つ、すなわち「手打ち」「右手打ち」になってしまいます。

 日本刀で巻き藁などを斬ろうと思ったら、斬激時には手首を向こうに向かって縦に回転させるように使わなければなりません。そして、手首をこのように縦に使おうとすれば、手首と肘の間の腕はやや外側に回転しようとするはずです。つまり手首と腕を内側に捻る「手ぬぐい絞り」の打突方法は、本来の手首や腕の使い方と逆の使い方をしていることになります。

 もしも、稽古の時に「手打ち」や「右手打ち」を指摘されるようなら、雑巾絞りの癖を疑ってみる必要があります。両脇を締めて手の平が上を向かないように竹刀を持つことと、打突時に両手首を内側に絞ることは、全く別のことなのです。

 癖を直すためには、まずはここのところをしっかり理解しなければなりません。その上で、振りかぶるときには右手を引き寄せて振りかぶるのではなく、左手を前に出すようにして振りかぶります。そしてこのときこそむしろ両手首をやや内側に絞るような意識を持つとよいでしょう。

 つまり打突時ではなく振りかぶり時にこそ両手首を若干内側に絞るような意識を持つことです。そして、このように振りかぶると今度は肘があまり曲がらず、肩が動くようになります。これが肘で振りかぶらずに肩・肩胛骨を使って振りかぶる、剣道の正しい振りかぶり方です。

 心持ちとしては、肘は軽く曲げたままであまり使わずに、肩で振りかぶって手首を縦に使って打つ感じです。最初はなかなか上手く出来ないかもしれませんが、素振りや基本打突を通して少しづつ身につけていってください。頑張れば数ヶ月でコツを掴めるようになると思います。

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