[2]打突


打突の部位

 剣道における打突の部位は、剣道試合・審判規則第十四条と細則十三条、細則第三図に示されてます。剣道において打突の部位が制限されている理由は[剣道の本質]編で述べたとおりです。

 ○面部  正面、こめかみの上の右面、左面
 ○小手部 右小手、および次の場合の左小手
          左手前の中段の構え、上段の構え、
          八相の構え、二刀の構え、脇構え、あげ小手、
          その他中段以外の構え

 ○胴部  右胴、左胴
 ○突部  突き垂部


常歩(なみあし)剣道 伝統的打突法 (SJセレクトムック No. 27 剣道日本)


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面打ち

 面打ちには、正面、左右面の打ち方がありますが、特に基本となるのは正面打ちです。正面打ちは剣道の全ての技の中でも、最も基礎となる大切な打突動作です。

 最初は、すり足で大きくゆっくり振りかぶって打つことから始めます。竹刀の振り上げや振り下ろしの際には、肘のみでなく肩関節を十分に活用し、竹刀の重心がなめらかな放物線を描くよう、円滑な体移動による一拍子の打ちを心がけます。

 竹刀の重心が放物線を描く太刀筋がつかめるようになったら、踏み込み足を用いながら、放物線の大きさを次第に小さくして素早く打つことができるようにします。

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小手打ち

 打突の要領は、面打ちの場合と同じです。竹刀の重心が面打ちよりもやや小さめな放物線を描くように竹刀を振り上げ、手先で打たずに身体全体で打つ心持ちで、相手の右小手を打ちます。

 小手打ちは、どうしても打突部位に目付が止まってしまいがちですので、打突部の小手だけでなく、相手の姿全体に目を配るよう心がけます。

 ※小手打ちの太刀筋

 小手打ちの太刀筋は、相手の手元の状態のよって二種類に分かれます。

 小手打ちの太刀筋は、一般には真っ直ぐ垂直に斬り下ろすものと教わると思います。しかし厳密に言うと、正しく正眼に構えている相手に対し、その刀身に沿って小手を垂直に斬り下ろしたのでは、自分の刀刃が相手の刀の鍔に当たってしまう可能性が非常に高くなってしまいます。

 正眼に構えた相手の右小手は自分から見て左上から右下に斜めに向かって「\」のようになっています。そこで、このように正眼に構えている相手の右小手を切り落とす太刀筋は、その小手に対してできるだけ直角に近い角度で斬りつけられるように、やや斜めに、自分の右上から左下に向かっての右袈裟切りの太刀筋になります。

 ここで、袈裟切りにおける刀法の基本は、自分の右上から左下に向かう太刀筋で斬るときには、右足前、左足後ろで斬るのが原則です。このときに足が逆になって左足が前だと、自分の刀で自分の左足に斬りつけてしまう可能性があるからです。

 ですから上記のような太刀筋で小手を斬るときには、右足前、左足後ろになるように右足で踏み込むのが基本となります。

 一方、今度は相手が打とうとして、正眼の構えから手元が上に上がった場合です。相手の手元が上がると、その右小手は自分から見て左下から右上に斜めに向かう「/」のように見えます。この右小手を、先ほどと同じような右袈裟切りの太刀筋で斬ることはできません。

 先ほどとは反対に左上から右下に向かう左袈裟切りの太刀筋で斬らなければなりません。そしてこの時の足は、左足前、右足後ろとなるのが袈裟切りの刀法の原則です。

 ですから手元が上がった場合の小手打ちは左足を前に踏み込んで打つか、場合によっては右足を後ろに引いて打つのが基本となります。

 最近の若い人たちの「出小手」と称する技を見ていますと、タイミング的には相手の手元が上がったところを、右足踏み込みで飛び込み、太刀筋は右肘を曲げて竹刀を左肩に担ぐような姿勢からの左袈裟切りの太刀筋で打っています。

 このため、打突時にはすでに相手の竹刀が自分の右肩に伸びてきており、これを避けるために上体を大きく左に傾けて身体全体を「く」の字に曲げて横向きになり、相手の竹刀の下に潜り込むようにしながら右肩から相手の左脇をすり抜けています。

 刀法本来の太刀筋と足さばきの関係が全く逆になってしまっているので、このような打突姿勢になってしまうわけです。

 本来の出小手というのは、こちらの攻めに反応して相手の手元が上がるところを、その手元が上がるより先に上から右袈裟切りの太刀筋で打って制してしまうものです。そして相手がそれでも打って出ようとしたら、そのまま真っ直ぐに面に打って出ます。

 一方、相手が打とうとして手元が上がるところを捉え、それが打突に繋がらないように左袈裟切りの太刀筋で小手を押さえ込んでしまうのを「押さえ小手」と言います。

 この場合は、原則として左足を踏み込んで行いますが、相手の出の勢いによっては、前方斜め横に開く開き足となる場合もあります。

 更に相手の打突を右足を引いて見切り、同時に相手の右手が振り下ろされるところを左袈裟切りの太刀筋で斬って落とすのを「余し小手」という場合があります。ただ、これはどちらかというと指導的な意味合いの強い技で、私が子どもの頃は、面打ちの伸びが小さい場合、勢いのない場合などに良く打たれました。

 ちなみに、左足を後ろに引きながら左袈裟切りの太刀筋で小手を打つのを「余し小手」と称している人もいますが、これは誤りだと思います。この打ち方では、足と太刀筋の関係が刀法の原則に反していますし、結果的に右肩前の横向きで打つことになりますから、身体の正面、正中線上で技を遣うという剣道の基本にも反した打ち方になってしまいます。

 以上のように、小手打ちの基本に習熟した人は、今度は打つタイミングと太刀筋、足さばきの関係までをも考え工夫して修練されることをお奨めします。

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胴打ち

 胴打ちは、一般には右足を一歩踏み込んで相手の右胴を打つと教えられる場合が多いと思います。全剣連の指導要領にもそのように記載されています。しかし私が子供の頃は、右胴を打つ場合には左足から踏み込んで打つように指導されました。

 右胴打ちの太刀筋は、自分の左上から右下に向かう左袈裟切りの太刀筋になります。小手打ちの基本のところでも述べたとおり、刀法の原則に従うと左袈裟の太刀筋の場合は左足が前でなければなりません。右足前で左袈裟に斬ると流れた刀刃で自分の右足を傷つけてしまう恐れがあるからです。

 そのため胴打ちの基本は、左足を踏み込んで相手の右胴を打ち、そのまま相手の右脇をすり抜ける方法をまずは学びます。そしてこの方法を十分に習得した上で、今度は二歩目の右足を真っ直ぐ前方ではなく右斜め前方に開いて、相手の左脇に体をさばきます。そして、この足使いが抜き胴につながる体さばきになります。

 最近の胴打ちは、右足踏み込みのタイミングで相手の前胴を打ち、そのまま左足を右前方に送って相手の左脇を抜けようとするために、打ったあとに体が右回りに回転してしまう、いわゆる回転胴打ちになってしまう傾向があります。

 指導者の方々は、ぜひ古来からの刀法の原則に則った足さばき体さばきを再度研究してみてください。

 なお、胴打ちの基本については、剣道の身法編第2章の「陰陽の足」の項も参照していただければと思います。

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突き

 剣道における「突き」は、剣道の本質編でも述べたように、殺傷技術としての突き技というよりは、相互に打突の機をうかがう攻防の中で、相手の正中線を制し、中心を取ったことを示す意味合いが強いと私は考えています。

 そのため、突きの威力そのものを必要以上に求めるよりは、むしろ突きっぱなしにならないよう、突いたら直ぐに中段の構えになることが重要です。

 突く際には、一般に右足から身体を進めながら両拳を心持ち内側に絞るように両腕を伸ばし、相手の咽喉部を身体全体で突き、素早く中段に戻ります。腕ばかりではなく腰を入れて身体全体で突き、突いたときは左拳が上がらないように気をつけます。

 突きを指導する際には、常に他の打突技術との関連を考え、年齢や習熟度を勘案しながら行うことが大切です。

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気剣体一致の打突

 剣道の打突は、すべて「気剣体の一致」した打突であることが大切です。

 「気」というのは、打突の意志、心の作用です。心の判断によって動作を起こそうする決心を言い、打突時にはそれが充実した気勢・掛け声となって表に現れます。

 「剣」は、正しい竹刀操作によって打突部を刃筋正しく打つ作用を言います。

 「体」は、体勢のことで、正しい足さばきによる腰の入った踏み込みの姿勢、その時の身体の力や四肢の動きを言います。

 たとえば、相手を打とうと決心しても、適切な竹刀操作や身体動作が伴わないと相手を打つことができません。また、素早い竹刀操作をしても、しっかりと踏み込んだ十分な体勢で打たなければ正確な打突となりません。機会を見てすばやく飛び込んだとしても、適正な竹刀操作による効果的な技が伴わなければ、これも有効な打突とはなりません。

 このように、「気」、「剣」、「体」の三つが一致して、初めて剣道の有効適切な打突ができます。ですから、基本打突の習得に当たっては、常にこの「気剣体が一致」した打突できるよう心がけて稽古しなければなりません。

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残心

 残心というのは、打突をした後にも油断をせず、相手のどのような攻め返しにも直ちに対応できるような「身構え・気構え」を示すこととされています。

 剣道の本質編で述べたように、剣道の打突というのは、初太刀によって敵の体勢を崩し、続く二の太刀で敵を仕留めることができる十分な体勢を築くための「斬りつけ」の刀法を学び修練するものであると仮定するならば、剣道にとって残心は必要不可欠のものであり、剣道の技法上の目的そのものであると言っても過言ではありません。

 このようなことから、残心の無いものは、仮に打突そのものが十分であったとしても有効打突にならない点をしっかりと理解して、基本打突を行う際においても常に残心のある行動を習慣化するように心がけましょう。

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