[3]基本の技

しかけ技

 しかけ技は、こちらの攻めに対する相手の反応に十分気を配り、相手が打突の動作を起こす前、あるいは相手が打突を起こそうとする機会に、その相手の構えの崩れや隙を見て、または隙を生じさせたところを打突する技です。

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   [一本打ちの技]

 一本打ちの技というのは、こちらの攻めに対する相手の剣先の変化をとらえた打突を言います。

 相手との間合に留意し、竹刀の重心位置で正中線をしっかり制しながら、剣先を相手の両眼の間か左目につけて攻め込み、相手の変化に応じて面、小手、胴を打ちます。

 常に攻めの意識を持って適正な間合から一拍子で打突することが大切です。

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   [払い技]

 払い技というのは、相手の身構えが十分にできていて、打ち込む隙のないときに、鎬を使う感覚で相手の竹刀を左または右に払って、相手の構えを崩すと同時に打ち込む技のことです。

 払う場合には右手だけで横から払うのではなく、両手首を柔らかく使って竹刀の重心点が弧を描くように払い、すかさず刃筋を正して身体全体で踏み込み、一拍子で打突します。

 払う機会は相手の動くとき、相手が出ようとしたとき、相手が引こうとしたときが効果的です。

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   [二段三段の技]

 最初の打突によって相手に隙の生じた次の部位をすかさず打つ技を二段の技と言い、第二の打突によって更に隙が生じた第三の部位を打つ技を三段の技と言います。

 この技は一つ一つを正確に、そして打ちと打ちとの間が連続しているように打つことが大切ですから、はじめは、一打ごとに大きく、ゆっくり、正確に打ち、練度に合わせて次第に律動的に早く連続して打突できるようにします。

 二段三段の技と言えども、まずは初太刀の一本を大切にし、それによって生じた相手の隙を見逃さず、二本目、三本目を打つように心がけることが大切です。

 そのため、最初から拍子をつけて(渡って)打つのではなく、初太刀を打ちきったあとに残心を込め、その後の打突も「気剣体」を一致させ、成功するまで攻撃する精神が特に重要です。

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   [出ばな技]

 出ばな技は、相手が打ち込もうとし、また攻めこもうとする瞬間をすかさず打ち込む技です。

 相手が攻めてきてから、また、打ってきてから打ち込むというのでは遅いので、相手が打とう、攻めようとする、その心の動きを捉えられるように常に気力を充実させ、打突するときは捨て身のつもりで思いきって打つようにすることが大切です。

 五輪書には、「無念無想の打と云ふ事」として、次のような記述が見られます。どうぞ参考にしてください。

  敵も打出さんとし 我も打出さんと思ふ時、
  身も打身になり 心も打心になって、
  手は 何時となく空になり、
  唯 心の命するまゝ 知らず知らず打事、
  是れ無念無想とて 一大事の折なり、

  此打 度々出合ふ打なり、
  能々習ひ得て 鍛錬有べき儀なり

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   [引き技]

 引き技は、鍔競り合いや体当たりなどで相手と近く接しているとき、その体勢からの攻めによって相手の構えが崩れ、隙が生じたところをすかさず退きながら打つ技です。

 ただ引いて打つのではなく、相手の構えを崩すように工夫し、手元が変化した機会を逃さず打つことが大切です。

 引きながらの打ちであっても、有効打にできるよう刃筋正しく打ち、かつ打突後に相手から目が離れたり姿勢が崩れないよう、十分に腰を入れて打ちます。

 ここでも五輪書の「石火の当りと云ふ事」という記述を引用しておきましょう。

  石火の当りは
  敵の太刀と我太刀と着合うほどにて、
  我太刀少しも上げずして
  如何にも強く打なり、

  是は足もつよく、
    身もつよく、
    手もつよく、
  三所をもって早く打べきなり、

  此打 度々打習はずしては 打がたし、
  よくゝゝ鍛錬すれば つよく当るものなり

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応じ技

 相手の打ちに対して、身体をかわしながら、「すりあげ」「返し」「抜き」「打ち落とし」などを行って相手の体勢を崩し、その崩れた一瞬にこちらから早く打ち込む技です。

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   [すりあげ技]

 打突してきた相手の竹刀を、自分の竹刀の右側若しくは左側ですりあげ、相手の打突を無効にすると同時に打ち込みます。小技ですが非常に高度で効果のある技とされています。

 大事なことは横から払って打つのではなく、振りかぶりの途中で「すりあげる」、つまり刀身に沿って「摺る」ようにしながら、相手の打突の軌道をそらせます。

 ・「面すりあげ面」
 ・「小手すりあげ面」など


※すりあげ技習得のコツ

 すりあげ技は日本刀の鎬を使う技ですので、稽古に当たっては日本刀の構造をよく熟知しておくことも大切です。

 日本刀の刀身には、中央部に線が入っていますが、この線を「鎬(しのぎ)」または「鎬線」と言います。この鎬より上の部分(峯側)を鎬地、下の部分(刃の側)を平地と呼んでいます。剣道形の木刀にもこの鎬線が入っていますので、確認してみましょう。

 すりあげを行う場合には、相手の打ち込んでくる刀の平地の部分にこちらの鎬地を合わせるように受け、直ちに手首を返して自分の刀の平地の部分に流して、相手の打ち込みの軌道を反らせます。このように鎬線を中心に角度の異なる鎬地と平地を上手く利用することを「鎬を使う」と言います。

 ですから鎬を使うための手首の返しがすりあげ技の習得には大切な要素となり、このコツは各自で百錬して自得していただくしかないのですが、私の場合は相手の竹刀の軌道を手の甲側で撫で上げるようなイメージを持って行うと上手く行くようです。

 つまり、表からすりあげるときには、右手の平ではなく左手の甲で撫で上げるようなイメージを持ち、裏からすりあげる場合には逆に右手の甲で撫で上げるイメージで行うのです。おそらく手首の構造上から、手の平よりも手の甲側の方が柔らかく使えるのではないかと思います。

 なお、すりあげ技の指導にあたって「半円を描くように振りかぶってすりあげる」と教えて下さる先生もいらっしゃるかと思います。

 鎬のない竹刀でのすりあげを行う場合には、ある程度そのような動きも必要にはなりますが、「半円を描く」ことを意識しすぎると、どうしても手首の動きが堅くなってしまいがちで、かえってぎこちない動きになってしまいやすいようです。

 手の甲で撫で上げるような手首の使い方には、こうした半円の動きも含まれていますので、ことさら「半円を描く」ことを意識しない方が良いように私は思います。

 また、相手の竹刀を受ける位置にも注意を向けてみましょう。

 先に竹刀の重心を意識して使うことを述べましたが、すりあげ技の場合にも、この竹刀の重心位置で受けるのがコツです。つまり相手の打ってくる竹刀の中結い付近に自分の竹刀の重心位置を合わせるように差し出してすりあげます。

 重心を正中線から外さないようにしておけば、相手に打たれることはありませんし、重心で受けたときが一番衝撃も少ないはずです。

 竹刀は真っ直ぐなので、重心で受けた場合には左拳は僅かに正中線を外れますが、これはやむを得ません。日本刀の場合には反りがあって湾曲していますので、重心と左拳を正中線に置いたまま、手首を僅かにひねって鎬地から平地に流すだけで、打ち込みの軌道を外すことが出来ます。

 竹刀の場合は反りはありませんが、反りの作用を竹刀の鍔元の張りによって代用させることが出来ます。ですからすりあげの練習のためには、やや胴張りの竹刀を使ってみるのも一手でしょう。

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   [返し技]

 打ち込んでくる相手の竹刀をすりあげるようにして応じ、直ちに手首を返して反対側の部位を打つ技を返し技と言います。

 前半部についてはすりあげ技と似ていますが、すりあげ技は相手の竹刀に対してすり上げた側をそのまま打つのに対して、返し技の場合は応じた反対側を打ちます。

 この技も、すりあげ技と同様に手首の働きがきわめて重要ですが、返す場合には手首による竹刀の返しだけではなく、足捌きも重要となります。

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   [抜き技]

 相手の打ち込みに対して、体捌きでかわして空を打たせ、相手の技や体の動き動きが尽きたところを素早く打つ技です。

 抜き技には、足捌きで自分の体をかわして打つ方法と、ぎりぎりの間合を見切りながら相手に十分な技を出させ、その瞬間に打つ方法があります。

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   [打ち落とし技]

 打ち込んでくる相手の竹刀に対して、体をさばきながら斜め下に打ち落として、相手の技を無効にしてすかさず打つ技です。

 相手の竹刀の重心位置を自分の竹刀の物打ちの刃部を使って打ち落とすようにすると上手く行きます。打ち落とす場合は手の内を十分に効かせて、相手の竹刀を軽く瞬時にたたき落とすような感じで一気に打ち落とします。

 打ち落とし技で大事なことは、十分に引きつけて相手の気剣体が技となって尽くされた瞬間を捉えて打ち落とすことです。

 打ち落とす動作そのものにはあまり力を入れすぎないように、打ち落とした反動ではね上がった竹刀の流れを活用して間合がつまらないよう素早く打ちます。

 なお五輪書にも、「はり受と云ふ事」として、打ち落とし技の習得につながる記述が見られます。こちらも参考にしてください。

  はり受と云ふは
  敵と打合時
  とたんゝゝゝと云ふ拍子になるに、
  敵の打所を
  我太刀にてはり合せ
  打なり

  はり合する心は
  さのみきつくはるにあらず、
  又受るにあらず、

  敵の打太刀に応じて
  打太刀をはりて、
  はるよりはやく敵を打つ事なり、

  はるにて先をとり、
  打にて先をとる所肝要なり、

  はる拍子能く合へば
  敵、何と強く打ても、
  少しはる心あれば
  太刀先も落ることにあらず、

  よく習ひ得て吟味あるべし

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体当たり

 打突後の余勢をかりて、身体が接触すると同時に竹刀をやや右斜めにして手元(両拳)を下げ、右手を自分の腹部に左拳を脇にとって手もとをしっかりとさせ、相手の体に突き当たることを「体当たり」と言い、体当たりによって、相手の気勢をくじき、退いたり、構えが崩れたところをすかさず打突します。

 体当たりをする場合は、下腹部に力を入れ、腰を据えて体をやや落とし、身体と腕と腹の力で、下から上に突き上げるように当たります。当たる側も受ける側も「手元を下げて腰から当たる」ということが大事で、頭を前に出して両手だけで相手の体に当たらないよう気をつけましょう。

 体当たりは技としてばかりではなく、基本打突やかかり稽古時に腰を鍛えると共に気力の養成などに役立たせる意味で行うこともあり、次のような効果があるとされています。

  1、体力を鍛え、姿勢が定まる。
  2、気力と勇気が養われる。
  3、身体の動作に軽快さが加わる。
  4、腰が安定して打突が正確となる。
  5、相手の気分をくじき、体勢を崩して隙を生じさせる。
  6、相手の反撃などを許さなくなる。

 五輪書には、「身のあたりと云ふ事」として、次のような記述が見られます。

  身のあたりは

  敵のきわへ入込て
  身にて敵にあたる心なり、

  少し我顔をそばめ、
  我左の肩を出し敵のむねにあたるなり、

  我身をいかほどもつよくあたる事、
  行合ふ拍子にてはずむ心に入べし、

  此入る事
  入り習ひ得ては
  敵二間も三間もはねのくるほど強きものなり、
  敵死入るほどもあたるなり、

  よくゝゝ鍛錬あるべし

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鍔ぜり合い

 相互が打ち合い、打突が不成功のまま体を接近させ「竹刀」の鍔と鍔とが交差接触して競り合っている状態を「鍔ぜり合い」と言います。

 鍔ぜり合いは、相手に最も近づいた大切な間合であり、時間稼ぎなど消極的なものにならないよう、打突の機会の一つと捉えて工夫研究することが大切です。

 鍔ぜり合いに入ったときは、次のようなことを心がけます。

 1、打突の意志のない鍔競り合いはしない。
 2、右拳を互いに身体の中央(胸の位置)で合わせ、竹刀を立て、
   少々右斜めになるように左手を置く。
 3、気持ちで相手を圧倒し、同時に技を出させないようにする。
 4、下腹部に力を入れ、正しい姿勢で機会を見て相手を押すか、
   体をかわすか、引くかして、速やかに技を出す。
 5、竹刀を相手の肩に置いたり、相手の竹刀を脇の下に挟んだり
   するような行為をしてはならない。

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切り返し

 切り返しは、正面打ちと左右面打ちを組み合わせた基本動作の総合的な稽古法です。

 中段の構えから大きく振りかぶって相手の正面を打ち、直ちに体当たりをして間合をとり、前進しながら相手の左面から交互に左右面を4回連続して打ち、今度は後退しながら同じように左右面を5回連続して打ちます。

 打ち終わったら中段に構えて正しい間合を取り、大きく振りかぶって正面を打ちます。

 これで1回の切り返しが終了ですが、これを2回続けてワンセットとし、これを相互に数回繰り返して行う方法が一般的です。

 なお、初心者の場合には正面打ちの後の体当たり省略して、打突後に十分に身体を前進させるように指導する場合もあります。

 切り返しで大事なことは、1回の切り返しを一呼吸で行うように心がけることで、これは手の内、間合、足さばき、体の運びなど、基礎的なものを身につけると同時に、気力を養うのにも役立ちます。

 また、準備運動、整理運動の代わりにもなりますので、稽古の前後には必ず行うよう習慣づけておくようにします。

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