[8]試斬り

真剣による試斬り

 昔は藁を荒縄で縛った「巻き藁」を使っていましたが、今は畳表をくるくると巻いて十数センチの太さほどにして輪ゴムなどで縛ったものを数日水につけておき、それを斬ります。

 同じ太さなら巻き藁よりも畳表の方が目が詰まっているので、若干斬りにくいです。

 さて、この畳巻きを垂直に立てて左右の袈裟斬りをする場合、多少剣道の経験のある人なら、ちょっと練習すればほとんどの人が簡単に斬れるようになります。先日も剣道初段の中学生にやらせたところ見事に斬りました。

 剣道経験が全くなく居合道だけの経験者の場合、初めての試斬りでは、4~5段の人でも失敗してしまうことがあります。これは、空間打突の経験しかない居合道者と実際に物を打っている剣道経験者の場合の斬激時における瞬間的な手の内の使い方の差だと思います。

 しかし、ある程度の練習を積むと、居合道経験者の方が刃筋を通すのが巧くなります。剣道経験者の場合は、どうしても力で斬ろうとする傾向が強いため、刃筋が安定しにくく、例えば「45度で袈裟斬り」のような課題を与えると、とたんに力みが出て斬れなくなってしまう場合が多いようです。

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試斬りの間合

 剣道経験者も居合道経験者も、初めての試斬りで戸惑うのは、その間合の近さです。

 ほとんどの場合、巻き藁から1メートル以上も離れて立ってしまいますが、それでは切っ先が届きません。正眼に構えた場合に鍔元から40~50センチの位置に巻き藁がないと袈裟斬りに切り落とすことは出来ません。

 これは、相手が人間ならば、ほぼ顔と顔をつき合わすような間合であり、まさに「自分の足を相手の股ぐらに差し入れる」くらいの近間です。

 もし、相手も自分と同じように真剣を持っていると仮定した場合、相手の体勢が全く崩れていない状態でこの間合まで入り込み、相手の肩口を袈裟斬りにするのは、ほとんど不可能だということが分かります。

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稽古着をかぶせた試斬り

 巻き藁に古い稽古着をかぶせると、ほとんど刃が通らなくなります。

 鎖帷子とまで行かなくても厚手の着物や綿入れのようなものを着ていれば、実戦の中で一太刀で致命傷を負わせるのは至難の業でしょう。

 赤穂浪士や新撰組が腰まで隠れる羽織を着ていたのは、このような理由からと思われます。

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巻き藁の水平斬り

 巻き藁を袈裟に斜めに斬るのではなく、真横から水平に斬るのはやや難しいです。先の中学生も、この水平切りはなかなか成功しませんでした。

 剣道で、胴打ちは真横に斬るのではなく、斜め下に斬るようにと指導されるのは、このためです。

 また、胴を斬って斜め下に刃を通そうとすれば、日本剣道形の7本目のように、斬った後に膝をつく、折り敷き胴の体捌きが必要になります。

 巻き藁を台の上に立てず、床に立ててそれを水平切りするのはもっと難しくなります。これを裾払いといいますが、腰を落として斬らなければならないため、柔軟な足腰と正確に刃筋を通すしっかりとした手の内が必要です。

 床に立てた巻き藁にふわっとした布のスカートをはかせると、スカートが風をはらんで刃筋が通るのをじゃまするため、裾払いはますます難しくなります。

 これにより、袴を履いた相手の足を切るというのはなかなか難しいことが分かります。

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日本刀の使い方と竹刀の使い方

 使いやすい使いにくいという差はあっても、日本刀と竹刀の基本的な使い方は同じです。...というよりも、日本刀と同じ使い方でなければ竹刀稽古の意味がありません。

 よく、剣道は押し切りで居合は引き切り、と言う人がいますが、これは実際に真剣による試斬りをしたことのない人の言葉です。

 真剣は、鍔もとからおよそ5センチ位のところに重心があります。ここに孔を空けて棒を通し、その棒を中心にヘリコプターのプロペラのように真剣をくるくる回転させたと仮定して下さい。回転する刀刃に大根でも当てれば、スパスパと切れるはずです。

 このように、日本刀は重心を中心に回転させることによって、ことさら押したり引いたりしなくても、ものを斬ることが出来るように作られています。

 日本刀は、重心を中心に回転させるように使うのが基本です。そして、その重心をどこからどの方向に移動させてやるか(ぶつけてやるか)が刀法の違いとなって現れます。
 例えば頭上に振りかぶったときの刀の重心位置から、相手の顔面を打ったときの刀の重心位置へ、一直線に重心を移動させながら、同時にその移動する重心を中心に刀刃が回転するように振ると、剣道の面打ちになります。

 振りかぶった位置から、相手の臍下に切り込んだ位置まで、刀の重心を一直線に移動させるように振ると、居合の切りおろしの刀法になります。

 鞘内にある刀の重心を相手の顔面に向かって一直線にぶつけるようにしながら、その重心を中心に刀刃を回転させるように鞘から抜くと、居合の抜きつけの刀法になります。

 外見上は全く違う刀法のように思えても、重心を中心に刀刃を回転させることとその重心を目的物に向かって一直線にぶつけてやるようにするという点で、基本的な太刀筋と手の内は全く同じなのです。

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剣道の面打ちでの試斬り

 ちなみに、巻き藁をほぼ人の頭の高さに水平に置き、それを学生剣道あたりで見られる、左手を支点として右手で押し出すような打ち方で斬っても、刀刃が1/3ほど食い込むだけでほとんど斬れません。

 しかし刀の重心を意識して、それを巻き藁のやや下、人が立っていると仮定するなら、その胸元あたりをめがけて、重心をぶつけてやるように振ると、畳表1枚を巻いたぐらいの巻き藁ならば剣道の面打ちスタイルでも斬れてしまいます。

 剣道の高段者が、面を打つときに、ただ当てるのではなく、顎の下まで切り込むような気持ちで打てというのは、こういうところから来ているのでしょう。

 剣道の元々の目的は、遠間から相手の顔面をめがけて飛び込み打ちして、相手の体勢を崩し、二の太刀で仕留められる間合まで入り込む技術と胆力を養うためと考えられますから、あえて太い巻き藁を一刀両断にする必要はなく、畳表一枚巻きぐらいを両断できれば十分でしょう。

 むしろ、斬ったときに自分の体勢が崩れないことと、相手の体勢を崩すためには、ある程度の遠間から飛び込み打ちをして、体当たりをするか相手の後ろまで駆け抜けるほどの勢いのある打突が求められると思います。

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居合の斬り方

 居合では、技を大きく見せるために、斬りおろしの太刀筋が、外から大きく円を描くようにしながら手前に引き斬る振り方をする人がいます。

 このような斬り方でも、畳表1枚巻きを袈裟に斜めに斬るぐらいなら、斬ることが出来ます。しかし、引き切りを意識しながら袈裟に斬ると、切り終えたときにどうしても左手が正中線を外れてしまう傾向が強まります。

 居合のときには美しいフォームで振れても、実際に試斬りをすると、そのフォームが崩れてしまう人は意外に多いものです。

 ゴルフでも、素振りがきれいでも、実際にボールを打とうとすると力みが入ってフォームが崩れてしまうのと同じなのかもしれません。

 また、畳巻き1枚巻きくらいなら、引き切り刀法で斬れてしまう人でも、巻き藁3本ほどを横に重ねて積み上げて、それを真っ向から両断するとなると、なかなか成功しません。

 しかし、刀を外から大きくまわして引ききるのではなく、刀の重心を真下にぶつけるように振ると、簡単に斬れてしまいます。

 また、この真っ向斬りの場合、引き切り刀法では、斬られた巻き藁は手前に落ちますが、重心を中心とした刀法では、向こう側に落ちます。

 試斬りの経験のある人は、斬られた巻き藁がどちらに落ちるかにも気を配ってみると良いかもしれません。

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