[4]二刀で学ぶ技術

片手打ちと両手打ちの手の内

 前述したように、一刀ではなかなか学べない技術、あるいは一刀では気づかなかった悪癖などが、二刀を学ぶことによって解決される場合が数多くあります。

 一刀剣道において、初心者と熟達者による面打ちのもっとも大きな違いを観察してみましょう。

 両者の違いは、初心者の竹刀が左手首の柄頭を支点とする大きくゆっくりとした回転運動のみを主体として振られているのに対し、熟達者の竹刀は打突の瞬間にその重心点を中心とするような小さく鋭い回転運動が加えられている点にあります。

 これが「打突の冴え」と呼ばれるもので、両手打ちにおける微妙な「手の内」の成果であると考えられます。

 しかし、一般的に行われるような最初から両手を使って打つ稽古法では、右手と左手を「テコ」のような作用で打つ方法の方が楽なものですから、この微妙な手の内の修得に時間がかかり、結果的にいつまで経っても左手を支点として右手を押し出すような打突方法、いわゆる右手打ちのクセが抜け切れません。

 武蔵会では、二刀における片手打ちで、最初から竹刀をその重心点を中心に回転をさせるような手首の作用を学び、それを右手でも左手でも同じように行えるように訓練します。そうして出来上がった左右の手を併せて一本の竹刀を持てば、それがそのまま両手打ちの正しい「手の内」につながります。

 更に、いざともなればいつでも左右片手で竹刀を扱える訳ですから、片方の手にのみ余計な力が入るということもありません。武蔵会で二刀の稽古を一年ほど続けると、一刀を持ったときの構えや打突から力みがなくなり、実に素直に打てるようになります。

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二刀の構えに現れる一刀の癖

 二刀を構えると、その人の一刀の癖が二刀の構えに如実に現れます。

 例えば、一刀を構えたときに左手が遊んでいる人は、二刀をとって正二刀に構えると、次第に左手小刀の位置が下がってきてしまいます。

 また、打ち気が強く常に右手に力が入りすぎる人はだんだんと振り上げた大刀が立って来ますし、腕が疲れて長時間上段に構えていることも出来なくなってしまいます。

 打突時に左腰が残って半身になりやすい人、姿勢が崩れやすい人なども、二刀をとるとその欠点が強調されて表に現れますから、一刀の癖を知るには二刀をとってみるのが一番分かりやすいのではないかと思います。

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二刀による一刀の矯正

 前述のような癖を持つ人が二刀をとって稽古しますと、一刀の人は実に良くその癖を矯正してくれるものです。

 例えば、左手が効いていない人は小刀の位置が下がってくるために、自分の胸や咽のあたりに大きな隙ができてしまいます。すると一刀の人はそこを狙って突いてくれます。その突きを左小刀で一生懸命防ぐことを稽古するうちに、いつでも左手を効かして攻めるコツが飲み込めてきます。

 また、右手に力が入り過ぎて竹刀が立つ人は、右の籠手を打たれ易い上、疲れて長時間竹刀を構えていられなくなるので、稽古するうちにだんだんと普段は力を抜いて打突時だけ手首を効かすコツを覚えるようになります。

 こうして構えや手の内や姿勢などを二刀で矯正して行くと、その効果が一刀に現れ、一刀の悪い癖が直ってきます。

 一般に、二刀ばかりを稽古していると、一刀の上達が遅れるばかりか一刀に悪影響すら与えかねないように思われがちですが、二天一流の理合のもとに正しい二刀の稽古を積み重ねてゆけば、必ず一刀にも良い影響を与え上達します。

 むしろ二天一流の本意は、一刀、二刀という垣根を取り払って、剣道そのものが上達するというところにあるのです。

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一刀への応用

 武蔵会における二刀繰法の基本は、「二刀を一刀に遣う」という言葉で表現されています。これは、二刀繰法の動作や心法は、そのまま一刀にも応用できることを表しています。

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二刀による切落

 相手の出頭に、その剣先を小刀で押さえて大刀で面を打つ。これは二刀における面打ちの定法とされています。しかし二天一流の基本形は、振りかぶった両刀を同時に振り下ろすという、二刀による二箇所同時斬りです。

 つまり押さえて打つのではなく、小刀も大刀も同時に打ち、その結果小刀が相手の剣を打ち、大刀は相手の面を打つというのが二天一流の正しい理合になります。これは相手の出頭に合わせて大小二刀で行う「切落」の技であると見ることが出来ます。

 ですからこの技法は一刀における「切落」に繋がります。すなわち相手の面打ちに対して、その竹刀を切落とす作用を左手が受け持ち、同時に右手で面を打つわけです。

 一刀のみの修練では、なかなか左右の手の役割分担を学びきれないために、左手できちんと切り落とせないまま右手だけをかぶせるように打ってしまう場合が多いのですが、二刀で左右の手の働きの違いをしっかり意識しながら修練することによって、難しいとされる「切落」の技へ一歩近づくことが出来ます。

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二刀の気構えと五分の見切り

 剣道の攻めの要諦は、攻め合いの中でどこまで我慢できるかというところにあると思います。高段者同士の立会では先に動かされてしまった方が負けると言っても過言ではないでしょう。しかし一刀のみの修練でこの攻めの要諦をつかむことはなかなかに難しいものです。

 二刀は二本の竹刀を持っています。単純に受けるということを考えれば、一刀の場合に比べて二倍の防御力を持っていると言えます。実はこのことは攻め合いの中で大きな心の余裕となります。

 高段者の厳しい攻めに対して、一刀ならば耐えきれなくなって打ちに出てしまうところを、二刀ならばもう少し耐えることが出来るのです。そしてこのわずかな耐えが一刀では難しかったぎりぎりの見切りを可能にしてくれます。いわゆる五分の見切りの感覚です。

 一刀をとってもこの感覚は活かされ、強い攻めに対してもぎりぎりまで我慢して攻めを見切る精神力が培われるようになります。

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自在の剣

 正二刀・逆二刀を修練することによって、一刀中段のみならず、様々な片手技、あるいは諸手での右上段・左上段など、一刀のあらゆる構え・技を使いこなすことが出来るようになります。

 いわゆる武器や構えなど、一切にこだわらない自在の剣が身につき、これこそが二天一流が求める境地であると言えます。

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