8.雑記帳(歌で伝える剣道の極意)

 ■ 剣 道 の 歌 ■

 昔から歌で伝えられてきた剣道の極意を集めてみました。

 これまでの師からの教えの覚え書きや、雑誌、書籍、インターネット等から拾ったものですので、記述が正確でないものもあるかもしれません。

 でも、一つか二つ、なにか思い当たる内容の歌、心に響く歌などがありましたら、どうぞ修行の糧にしてください。



剣道は人間性の涵養

 古は 術に留めし 此の道を、広げて説けや 人道として

 花咲けば はや実になると 思うなよ、絶えず吹き来る 六つ欲の風

 剣道は 静かに競ひ 争はず、勝つも負けるも 礼儀正しく

 上座をば 高位の人に 譲るべし、高位の人も 礼儀正しく

 一人に 礼を尽くして 他を見ずば、あまたの人に 無礼とぞなる

 兵法の 用をば内に 慎みて、礼儀二つに 心乱すな

品位

 剣道の 品は心の 持ち方で、自然に備はる ものとこそ知れ

道場の神聖

 道場に 入るべき時は 身をただし、心の鏡 曇り無きよう

自然体

 いろいろに 姿勢態度も 決まらずに、打たん心は 禁物と知れ

無心

 心こそ 心迷わす 心なり、心に心、心許すな

 打つ人も 打たるる人も、諸ともに、唯かりそめの 夢の戯れ(宝山流)

 打ち迷い する太刀癖の ある時は、己の心 定まらぬから

修行

 初めには 素直に大きく 技を持て、中はいろいろ、後は無駄なく

 倒されし 竹は自然に 立ち返り、倒せし雪は 跡形もなし

 ただ見れば、何の苦もなき水鳥の 足に暇無き、我が思ひかな

術理一致

 理と術は 車の両輪に さも似たり、ひとつを欠いても 進むことなし

 昔より、理を好めるは 下手となる、初学は業よ、上達は理ぞ

 技・芸は、技を怠るその暇に、理のみ長じて 下手となるなり(直心影流)

稽古

 稽古とて 勝負の心 忘るるな、勝負は平素の 稽古なるをば

 稽古をば 勝負するぞと 思ひなし、勝負は常に 稽古なるべし

 不器用と、人は言ふとも 稽古せよ、器用ばかりは いかであるべき(直心影流)

闘志

 人替わり 立ち替わりても 打てや打て、竹刀の竹は ささらなすとも

 あくまでも、打って相手を 打ち据えむ、したたか者と 人は言うとも

 人は皆、器用不器用は あるけれど、不撓不屈の 心忘るな

器用、上手

 上手とは、外をそしらず 自慢せず、身の及ばぬを 恥ずる人なり

 好き・器用 ありて稽古を 励みなば、さながら鬼に 金棒を得る

 不器用も 器用もともに 實有て、功がつもれば 道を知るべし(二天一流)

不器用、下手

 何事も 好きこそ物の 上手なれ、励め斯の道、好きになるまで

 初めから ものの上手は 無きものぞ、励め励めよ 太刀打ちの術

 不器用も 稽古を常に たしなめば、器用の人を 押して行くべし(直心影流)

呼吸

 苦しさは 己も人も 同じなり、今一呼吸が 油断大敵

掛け声

 掛け声は 敵の心を 挫くまで、なるべく高く 勇ましく

構え

 いろいろに 太刀の構えは あるけれど、先ず正眼の 構え忘るな

 いろいろと 構えはあれど、正眼の ほかに心を 移すべからず

 身の構へ、心の構へ、気の構へ、人の備ふる 備へ外すな

間合

 振りかざす 太刀の下こそ 地獄なれ、一歩進め、先は極楽

 竹刀をば 長くせんより、歩を進め、伸びる剣先限りなきなり

 両刀に 立ち向かいたる その時は、小太刀に心を うつすべからず

機会

 機を得ずに 先に出づれば、後の先を 彼に取られる 事多きなり

打ち込み稽古

 打ち込みは、ふりに構わず 数を打て、いつかは慣れて 早業となる

 打ち込みを むやみやたらに する故は、手足の凝りを 取るものと知れ

捨て身

 山川の 瀬々に流るる 栃殻も、身を捨ててこそ 浮かぶ瀬もあれ

 おのが身を 勇気の槌で 打ち砕け、これぞ誠の 教えなりけり

 敵に我が 皮を斬らして 肉を斬り、肉を斬らして その骨を斬れ

四戒(驚、懼、疑、惑)

 とやかくと 思ふ心の 疑ひに、勝をば敵に とられぬるかな

 学びぬる 心にわざの 迷ひてや、わざの心の また迷ふらむ(ト伝百首)

気合い

 立ち向かう 対手はいつも 大敵と、思うて心、おそれひるまず

 突く術は、腕の力に よらずして、腹に気合いを 込めて突くべし

面わざ

 伸び面は 打たるるものと 覚悟して、打たれても行け、打たれても行け

 さし面は 斬れるものでは ないけれど、手のくつろぎを 習うためなり

足さばき

 踏む足は、我が立ち歩む そのままに、右足前に つま先で立て

 あちこちに 踏みたる足を 直さねば、これぞ進まぬ 始めなりけり

体さばき

 居ながらに 胴を打つのは 早けれど、多くは平に なり易きもの

 打ってくる 太刀を太刀にて 受けずして、体をかわして 避けならふべし

手の内

 とる太刀の 握り調子は 柔らかに、締めず緩めず 小指離さず

 手の内の 出来たる人の とる太刀は、心にかなう 働きをする

 右を先、左を後に やんわりと、手拭い絞る 心にて持て

切り返し

 切り返す 太刀の早業 目覚ましく、当たる傍ら 敵なかりけり

体当たり

 二の腕と 腰の定まる それまでは、打ち込む度に 体当たりせよ

目付

 目付とは、瞳を見るぞ 習いなる、ものの崩しは 隠されもせず

 眼(まなこ)をば 見ることのみと 思うなよ、心に一つ、眼ありけり

相打ち

 切り結ぶ 太刀の下こそ 地獄なり、一歩踏み込め、後は極楽

 切り結ぶ 太刀の下こそ地獄なれ、たんだ踏み込め 神妙の剱(柳生石舟斎)

 打ち合わす 剱の下に迷ひなく、身を捨ててこそ 生きる道あれ(山岡鉄舟)

 先を打て、先を打たるな 稽古にも、習いは常に 習慣となる

 上段に とられし時は、身を捨てて、敵の心の ととのはぬ先

工夫

 稽古をば 疑ふ程に 工夫せよ、解きたる後が 悟りなりけり

 立合の 工夫作戦 二三して、それを一応 忘れるぞよき

懸待一致(攻撃と防御)

 懸かるとも 心に油断 なかるべし、懸に待あり、待に懸あり

 心気力の一致で 攻め、誘い、彼の動きの 隙に乗るべし

虚実

 実を避け 虚に乗ずれば 勝ちやすく、実と実との 優劣も良し

よい癖を学べ

 よき技を 教えられても、皆癖の つたないところを 習う人かな

 えて人は、皆癖々の あるものぞ、悪しきを捨てて 善を学べよ

後の先

 小手へ来る 太刀をはずして 振りかぶり、素早く面を 打ち習うべし

 抜き面は、一歩退きつつ 空打たせ、一歩踏み込み 面を打つ技

見取り稽古

 それぞれに 人の為す技 違うなり、よく見て習へ 人の為す技

調子

 打つ技は 手鞠拍子に 倣う(ならう)べし、行くも戻るも 一つ弾みに

 太刀先を むやみやたらに 振る人は、のちには打ちを 調子にて出す

平常心

 晴れて良し、曇っても良し、富士の山、元の姿は 変わらざりけり

 気は長く、心は丸く 腹立てず、己は小さく 人を大きく

大胆にして細心

 妙の字は、少き(わかき)女の 乱れ髪、云ふに云はれず、説くに説かれず

 油断をば 大敵なりと 心得て、堅固に守れ、おのが心を

明鏡止水

 写すとも 月も思はず、写るとも 水は思わねど、月ぞ宿れる(直心影流)

 癖が出て 弱くなりしを 知らずして、同じ強さと 思ふはかなさ

 この道は 上手ばかりが 師ではなし、下手ありて また上手ともなる

 師となれば 弟子を活かすを 旨とせよ、我が強さを 示すべからず

 剣術修行は、初めはほぐし、中度は苦しめ、末に肝を練ること 教ふるなり
                             (一刀流聞書)

残心

 残心は、勝って兜の 緒を締めて、敵の根城を 奪い取るまで

 対手をば、打ちたる時も 心して、構え崩さず 後に備えよ

 残心を 残す心と 迷わずに、打った気力を しばしそのまま

養生

 教えをば よく守りて、養生を おろそかにせねば、術も至らず

 武士の 酒をごすぞ 不覚なる、無下に呑まぬも また愚かなり

勝負

 勝負する 対手はいつも 大敵と、思うて心 引き締めて行け

 勝負とは、先ず勝つことを やめにして、負けじと思う 心こそよき

 法定(形)は、神の教えの 道なれば、努めて励め、技の源

 法定は、学ぶほど、なほ 道遠し、命のあらむ 限り努めよ

極意

 極意とは、おのが睫(まつげ)の ごとくにて、近くにあれど 見つけざりけり

 いたずらに 高き理ばかり 語りても、業に疎くば 空しかるべし

 悟っても、理業の一致は なかなかに、理屈に過ぎて 業は及ばず

 心だに 誠の道に かなひなば、祈らずとも 神や守らむ(神陰流)



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